要点
マスコミ経験者が個人メディアで活かせる5つの武器:①情報の真贋を見抜く裏取りの習慣、②専門知識をわかりやすく伝える文章力と構成力、③長年の取材で築いた信頼関係と人脈、④現場を知る者ならではの専門分野への深い理解、⑤締め切りを守り継続する力。これらは会社の看板ではなく、あなた個人の資産。AI時代だからこそ、人間にしかできない価値として光る。
「会社の看板がなくなったら、自分には何も残らないんじゃないか」
多くのマスコミ人が、こう不安を感じています。特に長年組織で働いてきた方ほど、「自分のスキルは会社あってこそ」と思い込んでいることが多いようです。
でも、それは大きな誤解です。
あなたがマスコミで培ってきた経験とスキルは、個人メディアで確実に武器になります。むしろ、組織の制約から解放されることで、その武器の真価が発揮されるのです。
この章では、マスコミ経験者が持っている5つの武器について、詳しくお伝えします。自分が持っている強みを再認識することが、個人メディアへの第一歩になるはずです。
あなたが持っている5つの武器
武器1:情報の真贋を見抜く目
インターネットには、膨大な情報が溢れています。正しい情報も、間違った情報も、意図的な嘘も、すべてが混在しています。一般の人にとって、その真偽を見分けることは、簡単ではありません。
でも、あなたは違います。
マスコミで働いてきたあなたには、「裏取り」の習慣が染み付いています。一つの情報源だけで判断せず、必ず複数の情報源で確認する。関係者に直接取材して事実を確かめる。数字が出てきたら、その出典を確認する。そういう基本的な作業が、体に染み付いているはずです。
この感覚は、個人メディアでこそ重要になります。
組織メディアには、法務部があり、編集部があり、複数の目でチェックする仕組みがあります。でも、個人メディアでは、すべてをあなた一人が担います。間違った情報を発信してしまったら、その責任はすべてあなたにかかってきます。
だからこそ、マスコミで培った「裏取りの習慣」「一次情報へのこだわり」「ファクトチェックの重要性への理解」が、あなたの強みになるのです。
AI時代には特にそうです。AIは、インターネット上の情報を学習して文章を生成しますが、その情報が正しいかどうかは判断できません。間違った情報を学習していれば、もっともらしい嘘を生成してしまいます。
一方、人間であるあなたには、情報を吟味する力があります。「この情報源は信頼できるか」「複数の情報源で確認されているか」「利害関係者の発言ではないか」。そういう判断ができることが、AI時代の大きな差別化要因になるのです。
読者は、「正しい情報」を求めています。溢れる情報の海の中で、「この人が言うなら信頼できる」という存在は、貴重です。あなたがマスコミで培った「情報の真贋を見抜く目」は、読者にとって大きな価値なのです。
武器2:読者を意識した文章力
「文章なんて、誰でも書ける」。そう思われることが多いですが、実は「読まれる文章」を書くことは、簡単ではありません。
マスコミで働いてきたあなたには、「読者を意識した文章力」が身についているはずです。これは、個人メディアで最も重要なスキルの一つです。
まず、わかりやすく書く技術。
専門的な内容を、専門家以外にも理解できるように説明する。難しい概念を、身近な例に置き換える。長い文章を、適度な長さに区切る。読みやすい言葉を選ぶ。そういう技術が、あなたには身についています。
「専門的な内容をわかりやすく伝える力」は、個人メディアで大きな武器になります。
あなたの専門分野について、一般の人はわからないことだらけです。でも、知りたいと思っています。その「知りたいけどわからない」という人たちに、わかりやすく伝えられることが、あなたの価値なのです。
次に、導入から結論への構成力。
新聞記事には、逆三角形構造という基本があります。最も重要な情報を最初に書き、詳細は後で補足する。読者は最初の数行で、記事の内容を判断します。だから、導入部で読者の関心をつかむことが重要です。
読み物記事の場合は、最初にリード文、そして、「つかみ」となるエピソード、さらに角度を変えたエピソード、さらにそれらを一般化し、深掘りする文章、最後に強いメッセージ……。そうしたストーリー展開などで読者をつかむことが欠かせません。
こうした構成力は、WEBメディアでさらに重要になります。
読者の時間は限られています。スマートフォンでサッと見て、「面白そう」と思わなければ、すぐに離脱してしまいます。だから、最初の数行で読者を掴み、最後まで読ませる構成力が必要です。
マスコミで記事を書いてきたあなたには、この構成力が身についています。実際には、WEBメディアでは、その目的によって構成方法がかなり異なりますが、いずれにしても、最適な構成を考える力があなたには備わっているはずです。それが大きな武器になります。
そして、見出しをつける感覚。
新聞の見出しは、限られた文字数で記事の核心を伝える技術の結晶です。「読者の目を引きつつ、内容を正確に伝える」というバランスが求められます。
個人メディアでは、この見出しの力がさらに重要になります。SEO(検索エンジン最適化)の観点からも、SNSでシェアされやすさの観点からも、見出しが記事の成否を左右します。
マスコミで培った見出し術は、個人メディアで大きな武器になります。
武器3:取材で培った人間関係
個人メディアで最も重要な資産の一つが、実は「人間関係」です。
マスコミで働いてきたあなたには、長年の取材を通じて築いてきた人脈があります。取材先との信頼関係があります。「この人に聞けば正確な情報が得られる」という情報源があります。これは、お金では買えない貴重な資産です。
丁寧に話を聞く。相手の立場を理解しようとする。記事にする時は、相手の意図を正確に伝える。そういう誠実な取材を続けていれば、取材先はあなた個人を信頼してくれるようになります。
この「信頼関係の構築方法」は、マスコミで働く中で自然に身についているはずです。
山田さん(仮名)のような地方紙記者なら、30年間で築いた地域企業とのネットワークがあります。経営者たちは、山田さんを信頼しています。「山田さんになら話せる」という関係性があります。これは、個人メディアで最大の武器になります。
佐藤さん(仮名)のような雑誌編集者なら、全国の職人たちとの関係があります。丁寧な取材を続けてきたからこそ、「また佐藤さんに取材してもらいたい」と言ってもらえます。この関係性も、個人メディアの大きな強みです。
田中さん(仮名)のような広告業界の人なら、クライアント企業やクリエイター仲間とのネットワークがあります。業界の内情を知る立場にいたことが、独自の視点を提供できる強みになります。
そして、「取材先とのネットワーク」だけでなく、「この人に聞けば」という情報源のリストも、重要な資産です。
専門家、研究者、実務家…。長年の取材で知り合った人たちに、「この件について教えてほしい」と連絡できること。これは、一般の人にはない、あなただけの強みです。
もちろん、会社の看板で取材に応じてくれていた人もいるでしょう。でも、誠実な取材を続けてきたあなたなら、「この人だから協力したい」と思ってくれる人が必ずいます。その人たちが、個人メディアでのあなたを支えてくれます。
人間関係は、時間をかけて築くものです。一朝一夕には作れません。だからこそ、長年マスコミで働いてきたあなたが持つ人脈は、かけがえのない資産なのです。
武器4:専門分野への深い理解
マスコミで長年働いてきたあなたには、「専門分野への深い理解」があります。これは、個人メディアで最も重要な差別化要因の一つです。
専門性というと、「自分は特定分野の専門家ではない」と思う方もいるかもしれません。でも、それは謙遜しすぎです。
10年、20年、30年と同じ分野を取材し続けてきたなら、あなたはすでにその分野の専門家なのです。専門家というのは、学者だけではありません。現場を知り、歴史的経緯を理解し、業界構造を把握している。それは、立派な専門性です。
山田さんのような地方経済担当記者なら、地域の産業構造、企業間の関係性、経済政策の地域への影響…そういうことを、30年間見続けてきました。大学の経済学者が持つ理論的知識とは違う、現場の知識があります。これは、非常に価値の高い専門性です。
佐藤さんのようなライフスタイル誌編集者なら、インテリア、手仕事、サステナブルな暮らし…そういう分野での15年の経験があります。どの職人がどんな技術を持っているか、どの地域にどんな伝統があるか、そういう「生きた知識」があります。これも、専門性です。
田中さんのような広告業界の人なら、ブランディング、マーケティング、クリエイティブディレクション…20年間の実務経験があります。「理論」ではなく「現場」を知っている。これが、大きな強みです。
個人メディアでは、この専門性が最大の武器になります。
なぜなら、読者が求めているのは「専門家の視点」だからです。一般論や表面的な情報なら、AIでも生成できます。でも、現場を知る人の深い洞察、歴史的文脈を踏まえた分析、業界構造への理解に基づく予測…そういうものは、その分野を長年見続けてきた人にしか書けません。
この「長年追いかけてきたテーマへの深い理解」「業界構造の把握」「歴史的文脈を踏まえた視点」が、あなたの専門性なのです。そして重要なのは、この専門性は「会社の資産」ではなく「あなた個人の資産」だということです。
会社の名刺や設備は、辞めたら使えなくなります。でも、あなたの頭の中にある知識、理解、洞察は、誰にも奪えません。それは、あなただけのものです。
個人メディアでは、この「あなただけの専門性」を前面に出すことができます。組織メディアでは、個人の色を出しすぎると「客観性に欠ける」と言われることもありました。でも、個人メディアでは、むしろあなたの個性的な視点が求められます。
「○○の分野なら、この人」。そういう存在になることが、個人メディアの目標です。そして、マスコミで長年働いてきたあなたには、その専門性がすでにあるのです。
武器5:締め切りを守る習慣
最後の武器は、一見地味ですが、実は非常に重要です。それは、「締め切りを守る習慣」です。
マスコミで働いたことがある人なら、締め切りの重さを知っているはずです。新聞は、締め切りを過ぎたら印刷が間に合いません。雑誌は、発売日に間に合わせなければいけません。放送は、その時刻に放送されます。「もう少し時間が欲しい」は、通用しない世界です。
この締め切り厳守の習慣は、プロとしての矜持と直結しています。限られた時間の中で最善を尽くし、必ず締め切りを守る。それがプロだ、という意味です。この習慣は、個人メディアで大きな武器になります。
個人メディアには、会社のような締め切りがありません。誰も催促しません。「いつか書こう」と思っていて、結局書かない。そういう人が非常に多いのです。
でも、個人メディアで最も重要なのは、実は「継続すること」なのです。
月に1回でもいい、週に1回でもいい。定期的に発信し続けることが、読者との関係性を築きます。「この人は信頼できる」という評価は、継続的な発信から生まれます。
一発のバズる記事より、地道な継続の方が、長期的には価値があります。でも、継続するのは簡単ではありません。忙しい、疲れた、書くネタがない…さまざまな理由で、継続を諦めてしまう人が多いのです。
マスコミで働いてきたあなたには、「継続する力」があります。
毎日記事を書いてきた新聞記者。毎月締め切りに追われてきた雑誌編集者。プロジェクトごとに成果を出してきた広告クリエイター。あなたは、「やる」と決めたことを、必ずやり遂げてきたはずです。
この「締め切りを守る習慣」「継続することの重要性への理解」「読者との約束を守る姿勢」が、個人メディアでも必ず活きます。
そして、もう一つ重要なことがあります。それは、「完璧主義に陥らない」ということです。
マスコミでは、限られた時間の中で最善を尽くすことを求められます。「もっと取材したい」と思っても、締め切りは待ってくれません。その中で、80点、90点の記事を出す。それがプロの仕事です。
個人メディアでも、これは同じです。完璧な記事を目指して何ヶ月も公開しないより、80点の記事を定期的に出し続ける方が、はるかに価値があります。読者は、完璧な記事を求めているわけではありません。役に立つ情報、面白い視点、誠実な姿勢を求めているのです。
マスコミで培った「締め切りの中で最善を尽くす力」は、個人メディアで確実に武器になります。
でも、こんな習慣は手放す必要がある
ここまで、マスコミ経験が個人メディアで武器になることをお伝えしてきました。
でも、すべての習慣が個人メディアで通用するわけではありません。むしろ、組織メディアで身についた習慣の中には、個人メディアでは「手放すべきもの」もあります。
次の章では、「マスコミ人が陥りがちな失敗」について、詳しくお伝えします。あなたが持っている武器を活かしつつ、手放すべき習慣を理解することが、個人メディア成功への道なのです。

