要点
マスコミ人が個人メディアで陥る5つの失敗:①客観性にこだわり自分の視点を出せない、②完璧主義で公開できない、③ターゲットが広すぎて誰にも刺さらない、④収益化を焦り信頼構築前にマネタイズして失敗、⑤SNS疲れで継続できない。解決策は「あなたの視点」を出す勇気、80点で公開し改善、一人のために書く、最初は信頼構築優先、SNSは選択と集中。組織メディアの習慣を手放すことが成功の鍵。
「客観性」の呪縛から抜け出せない
最も多い失敗パターン
マスコミ出身者が個人メディアで最初に陥る失敗。それは、「客観性」にこだわりすぎることです。
新聞記者だった山田さんは、個人ブログで地域企業の記事を書き始めました。しかし、3ヶ月経っても読者は増えません。記事を読み返すと、そこには「客観的で正確な情報」はあるものの、山田さん自身の「顔」が見えないのです。
「○○社は2024年に売上高100億円を達成した」 「同社の主力製品は△△で、国内シェアは15%」
これは、新聞記事としては完璧です。でも、個人メディアの読者が求めているのは、これではありません。
読者が本当に知りたいのは:
- 「山田さんは、この会社のどこがすごいと思ったのか?」
- 「経営者は、どんな人柄なのか?」
- 「30年取材してきた山田さんから見て、この会社の独自性は何か?」
つまり、「山田さんというフィルターを通した情報」なのです。
なぜ客観性にこだわってしまうのか
マスコミでは、「個人の主観を排除すること」が美徳とされてきました。
「記者の個人的感想は不要」 「客観的事実だけを伝えよ」 「あなたの意見ではなく、専門家の見解を載せろ」
これらは、組織メディアの論理として正しいものでした。不特定多数に向けて発信する以上、記者個人の主観を排除し、客観性を保つことが信頼性につながりました。
しかし、個人メディアでは、この論理は逆転します。
読者は「あなたの視点」を求めているのです。客観的な情報だけなら、AIやWikipediaで十分です。あなたに求められているのは、30年間現場を見続けてきたからこそ持てる「独自の視点」と「価値判断」なのです。
どう変えるべきか
客観性を完全に捨てる必要はありません。事実は正確に。でも、そこに「あなたの視点」を加えるのです。
Before(客観的すぎる): 「○○社は2024年に売上高100億円を達成。主力製品の△△は国内シェア15%を占める」
After(視点が加わった): 「○○社が売上100億円を達成した。30年この地域を取材してきた私から見ても、これは驚異的な成長だ。なぜなら、この会社は10年前、従業員わずか20人の町工場だったからだ。社長の□□さんは『大企業にはできない小回りの良さが武器』と語っていたが、まさにその戦略が実を結んだ形だ」
後者には、「30年の取材経験」「10年前との比較」「社長の人柄」「山田さん自身の評価」が含まれています。これが、個人メディアに求められる記事なのです。
実践的アドバイス
「私は〜と思う」を恐れない
最初は勇気がいるかもしれません。でも、「私は〜と思う」「私から見ると〜」という一人称の表現を、意識的に使ってください。
これは、無責任な主観を垂れ流すこと
ではありません。長年の経験に裏打ちされた「あなただけの視点」を提供することなのです。
「完璧主義」で公開できない
記者時代の習慣が足かせに
雑誌編集者だった佐藤さんは、個人メディアを始めて半年。書いた記事は20本以上ありますが、公開したのはわずか3本です。
「もう少し取材を深めたい」 「構成がしっくりこない」 「写真の質が気に入らない」
雑誌編集者として培った「完璧を目指す姿勢」が、個人メディアでは逆に足かせになっています。
マスコミ時代の基準:
- 誤報は会社の信用問題になる
- 一度印刷したら修正不可能
- 編集会議で企画が通らなければボツ
- デスクのOKが出るまで公開できない
個人メディアの現実:
- 公開後も修正できる
- 反応を見ながら改善できる
- 企画を通す相手がいない(自分で決められる)
- 完璧でなくても、まず出してみる
どう変えるべきか
「まず出す。反応を見て改善する」
これが、個人メディアの正しいアプローチです。
- 80点の記事をまず公開
- 読者の反応を見る(コメント、SNSでの反応、アクセス数)
- 必要に応じて追記・修正(何度でも可能)
- 次の記事に活かす
この循環を回すことで、記事は育っていきます。そして、読者との対話を通じて、「求められる内容」が見えてきます。
実践的アドバイス
「公開前チェックリスト」を作る
完璧主義を避けつつ、最低限の品質を保つために、簡単なチェックリストを作りましょう。
✅ 事実関係に明確な誤りはないか(5分で確認)
✅ 読み返して大きな違和感はないか(10分で確認)
✅ タイトルは内容を表しているか
✅ 結論は明確か
このチェックに合格したら、公開する。細部の表現や構成は、公開後も改善できます。
「公開は完成ではなく、スタート」と考えてください。
ターゲットが広すぎる
「みんなに読んでもらいたい」の罠
広告代理店出身の田中さんは、マーケティングの知識があります。だからこそ、「ターゲット設定」の重要性も理解しています。
でも、個人メディアを始めた時、こう考えてしまいました。
「ビジネスパーソン全般に向けて書こう」 「20代から60代まで、幅広く読んでもらいたい」
結果、誰の心にも刺さらない記事になってしまいました。
マスメディアの論理:
- 広く浅く、多くの人に届ける
- 万人受けする内容を目指す
- 特定層に偏らない配慮
個人メディアの論理:
- 狭く深く、特定の人に刺さる
- 「この人のために書いている」と感じてもらう
- ピンポイントのペルソナ設定
「マイゲスト」の重要性
moribitoプロジェクトで使っている「マイゲスト」という概念があります。
「ピンぼけゲスト」: 抽象的で誰でもない、誰にも響かないターゲット
「マイゲスト」: 具体的で鮮明、実在の人物レベルの明確なペルソナ
個人メディアでは、「たった一人のため」に書く方が、結果的に多くの人の共感を得ます。
なぜなら、「あ、これは私のことだ」と感じる人が必ずいるからです。
どう変えるべきか
実在する「あの人」をイメージする
山田さんなら、30年の取材で出会った「○○社の△△社長」のような、具体的な一人の顔を思い浮かべて書く。
佐藤さんなら、雑誌読者の中で特に反応が良かった「30代、子育て中、丁寧な暮らしに関心がある女性」という、具体的な一人を想定する。
田中さんなら、広告代理店時代の後輩で、「独立を考えているが不安を抱えている35歳」という、実在の人物を想定する。
「○○さん、読んでくれてますか?」という気持ちで書くのです。
実践的アドバイス
「友人に手紙を書くように」
個人メディアの記事は、不特定多数への放送ではありません。特定の一人への手紙です。
「このテーマで悩んでいるあなたへ」 「○○業界で働くあなたなら、こんな経験ありませんか?」 「私もかつて、同じことで悩んでいました」
この語りかけが、読者との関係性を作ります。
「収益化」を焦りすぎる
「すぐに稼ぎたい」という焦り
会社を辞めて個人メディアを始める。当然、収入への不安があります。
「いつから収益が出るのか」 「どうやってマネタイズすればいいのか」 「アフィリエイト広告を貼るべきか」
この焦りが、個人メディアを壊してしまうことがあります。
よくある失敗パターン
パターン1:立ち上げ直後から広告だらけ
サイトを開設して1ヶ月。記事はまだ5本しかない。でも、不安から様々な広告を貼ってしまう。
結果:
- サイトが重くなり、読み込みが遅い
- 広告が記事より目立つ
- 「儲け主義」の印象を与える
- まだ読者がいないので、収益ゼロ
パターン2:note有料記事の連発
「経験を売ればすぐ収益になる」と考え、最初から有料記事ばかり公開する。
結果:
- 無料記事で信頼関係を築けていない
- 「この人の記事は読む価値がある」という実績がない
- 誰も買わない
- 信頼を失う
パターン3:コンサル・講演の営業が前面に
個人メディアを「営業ツール」と位置づけ、全ての記事が「私のサービスを買ってください」というメッセージになってしまう。
結果:
- 読者は価値ある情報を求めているのに、営業しか来ない
- 「広告チラシ」と同じ扱いを受ける
- すぐに読まれなくなる
なぜ焦ってしまうのか
経済的不安: 会社の給料がなくなる恐怖
時間的焦り: 「もう若くない、早く結果を出さなければ」
成果への執着: 「努力を収益に変えたい」
これらは、当然の感情です。でも、個人メディアには「信頼の蓄積期間」が必要なのです。
正しいマネタイズの順序
フェーズ1:信頼の構築
- 良質な記事を無料で提供
- 読者との対話を大切にする
- 「この人の情報は価値がある」という評判を作る
- 収益:ほぼゼロ(覚悟が必要)
フェーズ2:小さな収益化の実験
- Amazon アソシエイトなど、控えめな広告
- 一部の記事を有料化(無料記事も継続)
- 小規模なオンライン講座やnote有料記事
- 収益:月数千円〜数万円
フェーズ3:本格的な収益化
- コンサルティング・講演依頼
- 定期購読サービス(Substackなど)
- 企業からの執筆依頼
- 収益:月数万円〜数十万円
この順序を逆転させると、失敗します。
どう考えるべきか
個人メディアは「畑」
種を蒔いて、すぐに収穫はできません。水をやり、雑草を抜き、手入れをする。その積み重ねで、やがて実がなります。
最初の半年〜1年は「投資期間」と考えてください。
この期間の収益目標は「ゼロでもいい」くらいの覚悟が必要です。その代わり、信頼という資産を積み上げるのです。
実践的アドバイス
「無料で価値を提供する覚悟」
最初は、惜しみなく情報を提供してください。
「こんな情報、無料で出していいの?」と思うくらいの内容を、無料で公開する。
それが、読者の信頼を得る最短ルートです。
収益化の基準:「読者から求められたら」
「この内容、有料でも読みたいです」 「コンサルティング、お願いできませんか?」 「講演してもらえませんか?」
読者からこういう声が出てきたら、収益化のタイミングです。自分から「買ってください」ではなく、読者から「買いたい」と言われる状態を作る。それが、個人メディアの正しいマネタイズなのです。
「SNS疲れ」で継続できない
「毎日投稿しなければ」というプレッシャー
個人メディアを始めると、SNSでの発信も必要だと感じます。
「毎日Xに投稿しないとフォロワーが減る」 「インスタのストーリーを更新し続けないと」 「YouTubeも週1本アップしないと登録者が離れる」
そして、疲弊します。
マスコミ時代との違い:
- 会社では、締め切りまでに記事を書けば終わり
- SNSは、終わりがない
- 24時間365日、「発信しなければ」というプレッシャー
よくある失敗パターン
パターン1:全てのSNSに手を出す
X、Instagram、Facebook、LinkedIn、YouTube、TikTok…全部やろうとして、どれも中途半端。そして、燃え尽きる。
パターン2:「バズ」を狙って疲弊
「いいね」や「リポスト」の数に一喜一憂。バズる投稿を作ろうと必死になり、自分らしさを失う。そして、疲れて辞めてしまう。
パターン3:批判コメントに傷つく
マスコミ時代は、読者からの直接的な反応は少なかった。でも、SNSでは容赦ない批判が飛んでくる。それに傷つき、発信をやめてしまう。
なぜSNS疲れが起きるのか
「アルゴリズム」という呪縛
SNSのアルゴリズムは、「毎日投稿」「エンゲージメント」を求めます。投稿頻度が下がると、表示されにくくなる。
でも、考えてみてください。あなたは、アルゴリズムのために書いているのですか?
違うはずです。あなたの専門性を必要としている読者のために書いているはずです。
「数字」への執着
フォロワー数、いいね数、リーチ数。これらの数字は、確かに重要です。でも、数字だけを追いかけると、本質を見失います。
フォロワー10万人でも、信頼関係がゼロなら意味がありません。 フォロワー100人でも、深い信頼関係があれば、仕事につながります。
どう変えるべきか
「SNSは手段、個人メディアが本体」
SNSは、あなたの個人メディア(ブログやSubstackなど)への入り口です。本体ではありません。
推奨する構造:
- 本体(個人メディア): じっくり書いた記事を公開(週1回でOK)
- SNS: その記事への導線を貼る(必要最小限の投稿)
この構造なら、「毎日SNSに投稿しなければ」というプレッシャーから解放されます。
「選択と集中」で一つに絞る
全てのSNSで存在感を示す必要はありません。
あなたのターゲット読者がいる場所を一つ選んで、そこに集中する。
- 40代以上のビジネスパーソンが対象 → X(旧Twitter)
- 30代女性が対象 → Instagram
- 企業向けコンサルタント → LinkedIn
- 映像で表現したい → YouTube
一つのSNSで確実な存在感を作る方が、全部に手を出して中途半端になるより、はるかに効果的です。
実践的アドバイス
「投稿頻度」より「投稿の質と継続性」
毎日投稿しなくてもいいのです。
週に2-3回、あなたの専門性が伝わる投稿を続ける。これだけで十分です。
重要なのは、「継続すること」。完璧な投稿を月に1回より、80点の投稿を週2回の方が、読者との関係は深まります。
「批判」への対処法
SNSでは、批判コメントが来ることもあります。これは避けられません。
でも、思い出してください。あなたは、30年間現場を見続けてきた専門家です。匿名の批判者より、あなたの方がはるかに深い知識と経験を持っています。
対処法:
- 建設的な批判:真摯に受け止め、改善に活かす
- 悪意のある攻撃:無視する、ブロックする
- 全ての批判に反応する必要はない
「SNS断ち」の日を作る
週に1日は、SNSを完全に見ない日を作りましょう。
通知をオフにし、アプリを開かない。
この「距離を取る時間」が、長く続けるために必要です。SNSは道具です。道具に支配されてはいけません。
まとめ:「手放すべき習慣」を理解する
ここまで、マスコミ人が個人メディアで陥りがちな5つの失敗を見てきました。
- 「客観性」の呪縛 → 「あなたの視点」を恐れずに出す
- 「完璧主義」 → 80点で公開、反応を見て改善
- 「ターゲットが広すぎる」 → たった一人のために書く
- 「収益化」を焦る → 最初は信頼の構築に集中
- 「SNS疲れ」 → 選択と集中、継続できるペースで
これらの失敗は、マスコミで培った習慣が、個人メディアでは逆効果になる典型例です。
でも、悲観する必要はありません。これらの失敗を事前に知っておけば、避けることができます。
そして、第3章で見た「5つの武器」を活かしながら、この「5つの罠」を避ける。それが、マスコミ出身者が個人メディアで成功するための道なのです。
次の第5章では、具体的な「技術的なハードルをどう乗り越えるか」をお伝えします。個人メディアでは、組織にいたときのように誰かに頼ることはできません。必然、技術的な課題をすべて自分で解決していく必要があります。そのコツをつかめるかどうかが成功のカギを握っているともいえるのです。

