小さな稼ぎを組み合わせて何とか生き抜く働き方があります。それは「モザイクワーク」とも呼べるスタイルで、一つの収入源に頼らず、複数の小さな仕事を組み合わせて何とか生計を立てていく方法です。
例えば、月収15万円の仕事一つより、5万円×3つの方がはるかに安心。一つダメになっても残り10万円で何とかしのげます。AI技術の普及により、これまで専門的だった分野でも個人が参入できるようになった今、モザイクワークの可能性はかつてないほど広がっています。
なぜ昔の人は生き抜けたのか？豆腐屋さんの智恵
先日、知り合いのお年寄りから心に残る話を聞きました。昔の豆腐屋さんの話です。
「あの豆腐屋のおじいさんはね、朝は豆腐を作って売り歩いて、昼間は畑を耕して、夕方は大工仕事の手伝い、夜は子どもたちに習字を教えてたのよ。それでなんとか食べていけたんだから」
一つひとつは大きな収入じゃない。でも、それらを組み合わせることで、豊かとは言えないまでも、何とか暮らしをつなぐことができたようです。
この話を聞いて、生きるということの厳しさと、それでも工夫して生き抜いていく人間の智恵に、感銘を受けました。小さな稼ぎを「副業」と呼ぶのは、どこか軽んじているような気がします。豆腐屋のおじいさんにとって、どれも等しく大切な「生業」だったのでしょう。
一つの収入源に頼る怖さ〜コロナ禍で見えた現実
現代の私たちの多くは「一本足打法」で生きています。会社からの給料一本、あるいは自営業なら主力事業一本。確かに一つのことに集中すれば効率はいいし、専門性も高まります。
でも、その一本が折れたらどうなるでしょう？
コロナ禍で痛いほど実感した方も多いと思います。観光業、飲食業、イベント業界の方々の中には、主力の収入源が止まって途方に暮れた方もいらっしゃるでしょう。
終身雇用が幻想だったことは、多くの人が感じていたことかもしれません。それでも、どこかで「会社が何とかしてくれるだろう」と思っていた。その甘い期待も、コロナ禍で音を立てて崩れた気がします。その一方で、なんとかダメージを最小限に抑えられた方もいました。以前から続けていた副業や、コロナ禍で急に需要が伸びた配達の仕事などで、なんとか食いつないだ人たちです。
生きるということは、本当に綱渡りのようなものです。どんなに準備していても、予期しない出来事が降りかかってくる。でも、だからこそ、複数の綱を張っておくことに意味があるのかもしれません。
モザイクアートのような働き方
こうした働き方を、私は「モザイクワーク」と呼んでいます。
モザイクアートは、小さな貝殻や石、タイルを組み合わせて美しい作品を作り上げますよね。それと同じように、小さな稼ぎをそれぞれ自分らしく組み合わせ、積み増してなんとか生計を立てていく働き方です。
一つひとつのパーツは小さくても、うまく組み合わせることで、なんとか暮らしを支える土台を作ることができる。そんな働き方です。
昔から続く生き抜く智恵
実は、こうした働き方は昔から当たり前でした。
かつての農家の人たちを見てください。春夏は田んぼで米作り、秋は山で木の実を採取、冬は藁細工や機織りなどの内職、農閑期には都市部への出稼ぎ。そして年中を通じて、卵を産む鶏を飼い、野菜を育て、味噌や醤油を仕込む。
まさに「なんでも屋」として、なんとか暮らしを成り立たせていたのです。
収入の手だてを1本に絞るのは、長い人類の歴史の中ではむしろ特殊なことです。サピエンスは農耕革命が起きる以前には、もっと多様な方法で食べ物を得ていました。
AI時代のモザイクワーカーたち
今でも、こうした働き方で何とか生き抜いている人は珍しくありません。そして、AI技術の普及により、その選択肢は飛躍的に広がっています。
従来型のモザイクワーク
- 地方の農家：農作業＋冬場の除雪作業
- 会社員：平日会社勤め＋週末実家の田んぼ手伝い
- 退職者：年金＋趣味の陶芸作品販売
AI時代の新しいモザイクワーク
主婦のBさん（35歳）の場合：
- 平日午前：パート勤務（月6万円）
- 平日夜：AIを使った画像生成とAdobe Stockでの販売（月2万円）
- 週末：ChatGPTを活用したブログ記事代行ライティング（月3万円）
- 隙間時間：Midjourney で作成したイラストをココナラで販売（月1万円） 合計：月12万円
元会社員のCさん（50代）の場合：
- ウェブデザイン：AIツールで効率化して短時間で高品質（月8万円）
- オンライン英会話講師：ChatGPTで教材準備を効率化（月4万円）
- AI生成音楽の楽曲販売：AudioCraftで作曲、各配信サイトで販売（月2万円） 合計：月14万円
みなさん、それぞれの事情を抱えながら、静かに工夫を重ねていらっしゃる。AIという新しい道具が加わったことで、その工夫の幅が少し広がったということなのでしょう。
AI技術がもたらすモザイクワークの革命
1. 画像・イラスト分野
使用ツール： Midjourney、DALL-E、Stable Diffusion
収益化方法：
- Adobe Stock、Shutterstock等での販売
- ココナラ、スキルクラウド等でのオーダーメイド制作
- NFTアート市場での販売
- ブログ用アイキャッチ画像の受託制作
現実的な収入例： 朝の通勤電車の30分。車窓を流れる風景を眺めながら、スマートフォンでMidjourneyを操作する。毎日5枚の画像を生成し、月150枚をストックサイトにアップロードする。それで月2〜3万円の収入になる。決して大きな金額ではないけれど、家計の足しにはなります。
2. ライティング・コンテンツ制作
使用ツール： ChatGPT、Claude、Jasper
収益化方法：
- ブログ記事代行（AIで下書き→人間が仕上げ）
- SNS投稿文作成代行
- 商品説明文の作成
- メルマガ原稿作成
現実的な収入例： 深夜の静寂の中、ChatGPTと向き合いながら記事の構成を練る。AIが作った下書きに、自分の経験と想いを織り込んでいく。1記事3000円×月20本で月6万円。時給に換算すれば決して高くはないけれど、自分の言葉で誰かに何かを伝える仕事には、お金以外の価値もあります。
3. 動画・音声コンテンツ
使用ツール： Runway ML、Synthesia、ElevenLabs
収益化方法：
- YouTube用ショート動画の大量生産
- 企業PR動画の制作
- ポッドキャスト用BGM制作
- 商品紹介動画の制作代行
4. データ分析・業務効率化
使用ツール： GPT-4 Code Interpreter、Google Bard
収益化方法：
- 中小企業のデータ分析代行
- Excel業務の自動化支援
- 在庫管理システムの簡易構築
- 顧客管理データベースの整理
現実的な収入例： 「地域の小規模事業者向けに、AIを使った売上データ分析サービス。月5社×1万円で月5万円」
よくある心配ごとについて
「時間がない」
通勤電車の30分でも、AIを使えば何かしらの作業はできます。昼休みの15分でChatGPTと会話を重ねれば、3ヶ月後には少し違った景色が見えてくるかもしれません。大切なのは、完璧を求めすぎないことでしょう。
「スキルがない」
掃除が得意、話を聞くのが得意、早起きが得意。それも立派なスキルです。「片付けのビフォーアフター写真」をAIで美しく加工し、整理収納の知恵をSNSで発信していけば、いつか誰かの役に立つ日が来るかもしれません。
「機械音痴で不安」
最初の3ヶ月は月500円しか稼げなくても、それで構わないのです。AIツールに慣れるための「授業料」だと思えばいい。焦らず、少しずつ、自分のペースで歩んでいけば、4ヶ月目からは急に道が開けることも多いものです。
「続けられるか心配」
完璧を目指さず、「今日はMidjourneyで1枚だけ」「今日はChatGPTで100文字だけ」から始めてみる。小さな積み重ねが、時間をかけて大きな力に変わっていくのを、きっと実感できるはずです。
現実は厳しい、それでも歩き続ける
正直に申し上げましょう。AIを使っても、最初からうまくはいきません。
- 「AIで簡単に稼げる」という甘い言葉に誘われて始めてみたものの、最初の月は時給100円にもならない。
- 心を込めて生成した画像が全く売れず、3ヶ月で累計500円。自分には才能がないのかと落ち込む夜。
- ChatGPTが生成した文章をそのまま使って、クライアントから「どこか機械的ですね」と言われるやるせなさ。
それでも、歩き続けている人たちがいます。なぜなら、AIは確実に私たちの可能性を少しずつ広げてくれるからです。
半年後、静かに変わっていた現実：
- 画像生成のコツをつかんで、月1万円の安定した収入
- ライティングでAIと自分の感性を上手に組み合わせ、月3万円
- データ分析で地域の小さな会社から感謝の言葉をもらい、月5万円
合計月9万円。生活を劇的に変えるほどではないかもしれませんが、心に少しの余裕が生まれます。それだけでも、随分と違うものです。
リスク分散という安心感
複数の収入源を持つことの最大のメリットは、リスクの分散です。
一つの仕事がうまくいかなくても、他があるという安心感。これは思っている以上に心の支えになります。生きることの不安が少しでも和らぐなら、それだけでも価値があります。
また、それぞれの仕事で得た経験やスキルが、思わぬところで花開くことがあります。AIでの画像生成で培った美的感覚が、本業のプレゼン資料を格段に美しくしたり。ChatGPTでの文章作成で磨かれた表現力が、社内の企画書で高く評価されたり。
時代の変化についていける力
モザイクワークには、もう一つ大切な価値があります。それは、時代の変化に対応できる力を身につけることです。
新しい仕事に挑戦していくと、その分野についての「土地勘」がつきます。最初はわからなかった業界の仕組みや、お客様のニーズ、技術の動向などが、少しずつ見えてくる。そうやって自分を静かにアップデートしていくことができるのです。
たとえば、会社員をしながらAI画像生成の副業を始めた方がいるとします。最初は月数千円の収入かもしれません。でも、この経験を通じて、AIがどのように進歩していくのか、どんな分野で需要があるのか、肌で感じることができます。
もし将来、その方の本業がAIの登場で厳しくなっても、すでにAI分野での土地勘があるため、新しい成長領域にスムーズに移ることができるでしょう。一から勉強を始める人に比べて、生き延びる可能性ははるかに高くなります。
昭和の時代、そろばんの先生をしていた方が、電卓の普及を見越して早めにパソコン教室を始めたという話があります。同じように、今の時代を生きる私たちも、小さくても新しい分野に足を踏み入れることで、時代の波に乗り遅れることなく歩んでいけるのではないでしょうか。
同じように歩んでいる人たちへ
モザイクワークで生き抜いている人たちは、決して珍しい存在ではありません。
ただ、そのことを声高に語る人は多くないかもしれません。SNSで華々しく「副業で月50万円！」と発信する人の陰で、黙々と小さな稼ぎを積み重ねている人たちがいる。昼間はパートで働き、夜中にひっそりとAIで画像を作っている主婦の方。定年後、年金だけでは心許なくて、慣れないパソコンでデータ入力をしているおじいさん。
華やかではないけれど、確実に、着実に、自分なりのやり方で生きている人たちです。
あなたも、そんな仲間の一人なのかもしれません。
生き抜くための新しい働き方
現代は、一つの会社で一生働くという働き方が難しくなってきました。けれど、それは決して絶望的なことではないのです。
モザイクワークは、日々を懸命に生きているあなたにこそ、一度試していただきたい働き方です。AI技術という新しい道具を手に、昔の人たちが持っていた「なんでもやって生き抜く」智恵を、現代版にそっと生まれ変わらせる。
一つの仕事だけでは心許ない、もっといろいろなことに挑戦してみたい、でも何より穏やかに生きていきたい。そんな想いに、ほんの少しでも応えることができるかもしれません。
小さな稼ぎです。でも、それが静かに積み重なって、いつの間にかなんとか暮らしを支えている。昔の豆腐屋のおじいさんのように。
一歩ずつ、あなたらしい「モザイクワーク」を始めてみませんか。生きることは確かに大変です。けれど、AIという道具と、工夫する心があれば、きっと何とかなる道が見つかるはずです。